男たちの挽歌
(香港・86)

監督/ジョン・ウー
出演/ティ・ロン、チョウ・ユンファ、レスリー・チャン

 学生時代、渋谷の映画館で暇潰しにこの映画を観た。まったく期待してなかったが、これが大当たり。それ以降、あの曲“英雄は死なず〜男たちの挽歌”をよく口笛で吹くようになった。元ヤクザの兄ホーと警察官の弟キットの愛憎、どんなに堕ちようとも巻き返しを狙うホーの相棒マーク。男にしか解らない美学と心意気が詰まった渾身の力作だった。この際あえて申し上げるが、女性には理解して頂くなくても結構。『ソルジャー・ドッグス』(83)のあまりにヒドい出来が原因で、映画を撮れずにいたジョン・ウーをブロデューサーのツイ・ハークが起用して製作された。ホーとマークの関係は、ある意味でツイ・ハークとジョン・ウーのそれに置き換えて見ることもできる。そしてホーを演じるティ・ロンもまた、カンフー映画ブーム後をくすぶりながら過ごした半ば過去の人だった。この映画は敗者復活に賭ける者たちの思いが込められ、見事、起死回生の一発になり得ている。映画館を出るとき、それまで当然の如く抱いていた【香港映画 = カンフー or コメディ】という偏見が完全に崩れ去った。事実、これ以降、香港映画は所謂“香港ノワール”の時代に入り、黒社会という言葉を目にするようになった。『男たちの挽歌』でのジョン・ウーの演出は、今からみると粗い箇所が散見でき、不自然なアングルから捉えた湾曲して見える画面は少々不快でもあった。が、そんな事はどうでもいい。観る者を引きつける作品であることに違いはない。大袈裟に言えば香港映画への見方を変えさせた一本だと思う。今やジョン・ウーの専売特許ともいうべき、二丁拳銃を弾倉が空になるまで乱射し続けるアクション描写に衝撃を受けたのを覚えている。
 ただ、映画の内容以外にどうしても納得し難い点がある。この映画を観れば解るとおり、どう考えても主人公はティ・ロン演じるホーなのだが、日本では公開当初からチョウ・ユンファにばかりスポットが当たり、現在でもDVDのパッケージなどではユンファの写真が大きく使われ、クレジットもユンファの名前が最初だったりする。ティ・ロンはこの映画で台湾のゴールデン・ホース賞主演男優賞を受賞しているにも関わらずに、だ。確かにユンファの世界的知名度から考えれば、「ティ・ロン主演」とするより「チョウ・ユンファ主演」としたほうが商品価値が上がるだろうが、それではティ・ロンの立場がないではないかと思うのだが。この映画の主人公はティ・ロンであると断言したい。刑務所の庭で空を見上げるシーンや、寒そうに腕を組み桟橋で黄昏れるシーンで、ティ・ロンがみせた哀愁感はじつに味わい深い。どこの誰が何と言おうと構わない。初めて観た時から今まで、この『男たちの挽歌』という映画を忘れ難いものにしているのは、あの曲のメロディーとティ・ロンの演技に他ならない。

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