カスカーフェイス
(米・83)監督/ブライアン・デ・パルマ
出演/アル・パチーノ、スティーヴン・バウアー、ミシェル・ファイファー80年代、マイアミにはキューバから流入してきた難民が溢れていた。そのなかにトニー・モンタナがいた。麻薬組織の下で使いっ走りの仕事を始めたモンタナには、壮大な野望があった。コカイン・ビジネスでのし上がり、金も女も手に入れてやる! モンタナの抜け目ない仕事ぶりと鼻っ柱の強さが組織のボスに気に入られたのをきっかけに、モンタナは裏社会で一気にブレイクしていく。平然と殺しもやってのけて一目置かれる存在になった。邪魔な人間やボスをも殺し、権力も富も手に入れる。しかし、モンタナ自身がコカインに心身を犯されていた。世界は俺のもの、と己を奮い立たせながら荒れ狂っていくモンタナ。心の拠り所だった妹ジーナと相棒マニーがモンタナに内緒で結婚したことに怒り、モンタナはマニーを殺してしまう。彼の中ですべてが狂いはじめる。さらに同じ頃、モンタナを危険視した南米の麻薬王がモンタナ抹殺の刺客たちを放つ。
現実社会でトニー・モンタナのようなヤツがいたら、ハッキリ言ってロクなもんじゃない。麻薬を使って大物になろうとするなんて、どうしようない人間のクズのやることだ。しかし、そんな大悪党トニー・モンタナをアル・パチーノが演じるとめちゃくちゃカッコ良く見えてしまうのも事実。さすがにトニー・モンタナのキャラクターにはなかなか感情移入できないが、鬼気迫る演技をみせるアル・パチーノの役者魂はすごい。モンタナの選んだ道は人道に反するが、男が持っていなければならない意思の強さがある。ギラついたガッツを武器にして、絶体絶命の窮地に立たされても強気に打って出る。平たく言えば極度に自己中心的な人物である。同じく破滅まっしぐら人生を歩んだ『仁義の墓場』の主人公はどう生きても外道以外にはなれなかったが、もしもモンタナがまっとうな世界で本領発揮すれば大成したであろうことは想像しやすい。麻薬と暴力で這い上がり、頂点を目前にしながら自らもコカインに溺れてしまう生き様が哀れ。桁外れの悪人であるが、唯一の泣きどころが最愛の妹というのが余計に悲しい。
衝撃的なラストシーンは映画史上に残るであろう鮮烈さ。グレネード・ランチャー付きM16から噴き出されるマズルフラッシュが目に焼きつき、銃弾を浴びてなお仁王立ちになるトニー・モンタナの最期が凄まじい。『スカーフェイス』の印象を決定づけるこのカタルシスでの、圧倒的な狂気の爆発はアル・パチーノの力量があればこそ果たせたのだと思う。落ち込んだ眼窩でギョロギョロ動く目と、世界を罵る言葉を吐き出す歪んだ口。最高の俳優は見事に悪の華を咲かせ、そして壮絶に散らせてみせた。映画の時間が長くて、とくに後半がややダレがちだが、ラストのインパクトが沈鬱な気分を木っ端微塵に吹っ飛ばす。
まさしく暴力映画の極北とでも言うべき映画だが、暴力描写の完成度と4文字言葉の多さがたたり、アメリカでは公開前から評論家に忌み嫌われ酷評されたという。監督/ブライアン・デ・パルマ、脚本/オリバー・ストーン、主演/アル・パチーノとくれば注目を集めて当然だが、それゆえに格好の標的にされたのだろう。有名なチェンソーの拷問シーンは、肉体が破壊されるカットそのものはなく、金属音、血しぶきだけで残虐な殺人を観客に想像させる演出で、その完璧度がかえって顰蹙を買った。救いのない映画とも言える。確かに観る人によってはまったく受けつけない映画だろうが、ストーリー以外にもカメラワークの面白さなどもあり、少なくとも一度は観る価値があると思う。