グロリア
(米・80)監督/ジョン・カサヴェテス
出演/ジーナ・ローランズ、 ジョン・アダムス、グロリア・スウェンソングロリアといえば、日産の車でもなく、パティ・スミスの曲名でもなく、この映画を真っ先に思い浮かべる。どう考えても、この映画のジーナ・ローランズはカッコいい。インディーズ映画の傑作と評価の高い本作で主役を張ったローランズは、夫であり監督のジョン・カサヴェテスに「絶対に綺麗に撮るから」と説得されて、主演を承諾したという。ハッキリ言ってローランズは美人ではない。どんなに「綺麗に撮る」と言われても、撮影当時46歳のローランズを綺麗に撮ることは不可能。しかし、この映画でのローランズは皺くちゃで頬肉の弛んだ厚化粧のオバチャンだが、文句なしにカッコ良く魅力的。女ながらに男気がある。マフィア相手にタンカを切る場面は、『極道の妻たち』の岩下志麻も腰抜かすに違いない。男の観客にとって女優の魅力とは即ち美貌を指す。が、グロリアを演じるローランズはルックスではなく生き様で観客の心を掴んだといえる。99年のリメイク版で主演したシャロン・ストーンには、ルックス上の華はあったが、ローランズの持つ雰囲気がない。
マフィアを裏切った男が組織に殺された。男は殺される前に隣に住むグロリアに8歳の息子フィルを預けていた。グロリアは組織のボスの元情婦でマフィアの強大さを知っている。子供嫌いのグロリアにとってフィルは鬱陶しい存在で、まして自分も危険に巻き込まれるのは真っ平御免。保身からフィルを見捨てようとするグロリアだが、彼女の中にある母性はそれを許さなかった。マフィアの魔の手をかいくぐってグロリアとフィルの逃避行が始まる。
グロリアとフィルの関係が素敵。親子とも恋人とも親友とも違い、そのどれにも当てはまる不思議な二人。愛すべきこの映画を成功に導いたのは、肝っ魂の据わったローランズの演技もさることながら、フィル役のジョン・アダムスの愛くるしさも挙げるべきだろう。互いに憎まれ口を利きながらも、敵だらけの世界で唯一心を許せる間柄になっていく。その過程をカサヴェテスは優しさに満ちた演出で微笑ましいエピソードを織り込みながら仕上げている。グロリアの目の前でマフィアがフィルを連れ去ろうとした時、グロリアが電光石火で拳銃をぶっ放す場面が感電するほどカッコいい。本作を元ネタにしたといわれる『レオン』(94)も決して嫌いな映画ではないが、観終わった時の心地良さは『グロリア』が上。この映画はインディーズで製作され、スタッフの多くはカサヴェテス&ローランズの友人らで固められたらしい。確かに金のかかった場面はないが、そのぶんニューヨークのリアルな空気がフィルムに焼き込まれている。自主制作という状況下にあっても、優れた脚本と魅力的な俳優、そして製作者の情熱があれば映画は成功する、それを証明した一本だと思う。
