暴走機関車
(米・85)

監督/アンドレイ・コンチャロフスキー
出演/ジョン・ヴォイト、エリック・ロバーツ、レベッカ・デモーネイ、ジョン・P・ライアン

 1965年、黒澤明初の海外映画となるはずだった企画が、黒澤側とエンバシー映画社との条件面での不成立により頓挫。黒澤の原案にドルジェ・ミルセビック、ボール・ジンデル、エドワード、バンカーが書き下ろした脚本が加えられ、企画から20年後の85年に製作された。80年代、チャールズ・ブロンソンやチャック・ノリスの主演映画を連発して世間から顰蹙と嘲笑を買ったキャノン・グループが製作、ロシア人監督アンドレイ・コンチャロフスキーが起用された。結論から述べると、これは列車パニック映画の傑作のひとつだと思う。ストーリーの巧みさもさることながら、出演者の熱演も光る。アラスカの刑務所から脱獄した二人の凶悪犯が逃亡のために乗り込んだ機関車が大暴走。しかも、運転士は発車直後に車外に転落。醜いエゴ剥き出しで衝突しながら機関車を停めようと二人は奮闘する。偶然乗り合わせていた女運転士助手や脱獄囚を異常な執念で追う刑務所々長の登場がドラマを盛り上げる。アラスカの大雪原を鋼鉄の凶器と化した四連機関車が駆ける。壮絶な人間の姿がある。刑務所脱獄、機関車暴走、主人公マニーと所長ランケンの死闘などエキサイティングな場面もいいが、それ以上にハイ・テンションなジョン・ヴォイトとエリック・ロバーツの演技が素晴らしい。人格が破綻しているマニーは野獣のように荒れ狂う。ひたすら本能で突っ走り、それ以外のことには目もくれない。目的のためには周囲の人間も巻き込む。全盛期のスタン・ハンセンを彷彿させるバイオレントさを爆発させるヴォイトに鬼気迫るものをみた。ここには『真夜中のカーボーイ』や『チャンプ』のような優しさはない。そしてチンピラ丸出しでやさぐれた若者を演じるエリック・ロバーツの熱演が光る。コンチャロフスキーの演出は、全てが凍てつく極寒の厳しさ、人間を拒絶する機関車の鋼鉄の硬さ、破滅に突進する主人公の痛々しさを手堅く描く。なんとも重苦しいラストシーンにリチャード三世の言葉がかぶさり、とびきりの絶望感を味わされつつも、微かではあるが人間らしい一面を覗かせるマニーに救われる。残念なのは、重厚な場面でもキャノン・グループお得意のチャチな電子音楽が使われ、こればかりは頂けない。
 なかなか見応えのある映画だと思う。もしも黒澤明が手掛けていたとしたら、そちらも是非観てみたかった気もする。が、『隠し砦の三悪人』や『天国と地獄』での手腕を用いれば、かなり面白い映画に仕上がっていたと思うが、果たして『赤ひげ』以降ではどうだっただろうか?

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