ボーダー
(米・81)監督/トニー・リチャードソン
出演/ジャック・ニコルソン、ハーヴェイ・カイテル、ヴァレリー・ペリン、ウォーレン・オーツ、エルピディア・カリーロアメリカとメキシコの国境の町テキサス州エルパソ。フェンスに隔てられた2つの世界にはあまりに残酷な貧富の差が横たわる。この町で不法越境してくる密入国者を取り締まる国境警備隊に入隊したチャーリー・スミス(J・ニコルソン)。派手好きで浪費癖のある女房に振り回されながら、新しい生活を手に入れるために献身的に職務をこなすチャーリーだが、貧困にあえぐ密入国者たちの現実と、汚職にまみれた同僚たち、弱者をエサにする犯罪シンジケートの存在を目の当たりにする。組織に子供を奪われたメキシコ人の娘マリアに同情したチャーリーは、公僕としての義務か、ひとりの人間としての正義か、そのいずれかの選択を余儀なくされた時、チャーリーの銃口は同僚たちに向けられた。
ジャック・ニコルソンがカッコいい。職務や家庭を捨ててまで信念を貫き、腐敗した周囲に孤独な戦いを挑んでいく姿は、己の正義に従い、自由に生きたニューシネマのヒーローたちのようでもある。この映画は80年代初期の作品ではあるが、実に70年代の雰囲気がある。監督トニー・リチャードソンは社会派作品を得意とし、いわゆる娯楽性は希薄で全体的に淡々としている。ドキュメント風のドライな画面からはタフで硬派なものが滲む。物語はメキシコ大地震から始まる。瓦礫の中から生き延びたメキシコ人女性マリアは幼子と弟を連れて富める国・アメリカを目指す。一方、家庭にも仕事にも虚しさを感じていたチャーリーは、女房マーシーの軽い思いつきに半ば押し切られてエルパソにやってくる。国境警備隊に転身したチャーリーは、偶然、マリアと出会う。異なる背景を背負った二人が出会うまでのプロットが見事。マリアは貧しくも純情な心の持ち主だが、赤ん坊を誘拐されたうえ、売春婦にまで身を落とす。チャーリーは義侠心からマリアの赤ん坊を奪還するために行動を起こす。
自分を助けるチャーリーの行動が理解できないマリアに、チャーリーが「(自分が)気持ち良くなるためさ」と言ってのけるシーンにグッときた。センチメンタルなバラッド“Across The Border”が流れるラストで男気が燃えあがる。素っ気ないリチャードソンの演出だが、ライ・クーダーの音楽が奥ゆかしい色を添える。J・ニコルソンというと、『シャイニング』(80)などの強烈な印象も手伝ってブチギレた時の凄みが持ち味だと思う。軽率な女房に手を焼くニコルソンは一瞬情けなかったが、一気に突っ走るラスト近くはやはり凄みがあった。ちなみにマリアを演じるエルピディア・カリーロは『プレデター』(87)に女兵士役で登場している。
